幻の服部四郎論文集 第5巻


服部四郎教授の謦咳に接したことが随分前にあったが、今まであった学者たちの中で本当の碩学であった。学問が細分化され、学問を俯瞰することができなくなった時代であるから、さまざまな学問分野から碩学がでることはない。

服部四郎教授のアルタイ諸語の研究論文集は非常にレベルが高いが、透徹した考察により明確さが現れている。三省堂から出版された論文集(4巻既刊、第5巻未完)が絶版になって久しい。このため、優れた書籍でありながら、図書館での利用は可能であるが、購入して熟読することは難しくなっている。

この論文集は、第5巻として「アルタイ諸語の資料集」が出版される予定であったが、著者の急逝により日の目をみることはなかった。日本のアルタイ諸語研究に裨益するところ、多大と思われるが、このような良質の研究書が出版されることがなかったことは残念だ。著者のご遺族のもとに、原稿が残されているとのことだが、いつの日にか出版されることを期待してやまない。幻のままに終わっては欲しくないと思う人はきっと多いと思う。