満鉄東亜経済調査局『新亜細亜』のユダヤの動向

満鉄東亜経済調査局発行の雑誌『新亜細亜』には,「アジアの展望」というコラムがある。『新亜細亜』(昭和15年2号)の「アジアの展望」では,猶太(ユダヤ)の動向が掲載されている。その中で「トルコ猶太人に差別待遇」とトルコのユダヤ人の動向について簡単な消息を書いている。

「猶太系トルコ人は,直接戦闘の兵役から除外されると云う最近の政府決議を已むを得ず承認せしめられた。これで数年前の形勢に還ったわけである。将来に在ても猶太人は武装訓練される事なく単に,伝令又は従卒としてトルコ将校の命に従う事となるのである。彼等は若し特別軍事課税を納付すれば,18ヶ月の代りに僅か6ヶ月の軍隊生活を勤めればよいと云う選択を与えられることになっている。

 ブルサに在っては,猶太人は公会,市街に於いては一切トルコ語を使用すべき強制的命令を受けている。そして此の命令を無視する者は市街から退去せしめられるのである。今回の制度も所謂「トルコ人のトルコ」政策の一部を為すものであり,別に排ユダヤ的意味の有るものではないと称へられている…」

昭和15(1940)年の雑誌にユダヤ人の動向,それもトルコのユダヤ人の動向が掲載されていることは興味深い。このようなことまで調べているので,満鉄東亜経済調査局の研究調査の能力が高かった。現代トルコについて継続的に詳細に調査している,公的な機関はない。

外務省も経済産業省も中東やトルコに関して,委託調査させるだけで,現地データを蓄積し,それに基づく調査研究は行われていない。アジア経済研究所が現地の調査研究を担っていたが,行政改革の美名のもとに研究調査の部門が縮小されている。残念なことである。満鉄調査局のように,潤沢な資金と人員がないと,やはり総合的な調査研究は無理であろう。このような調査研究やデータの蓄積があって,戦略を立案できる。残念ながら,必要なところに税金が投入されず,ばらまきでは日本の知的水準はますます低下していくのであろう