大日本回教協会 『世界回教徒対策の必要性に就いて』


大日本回教協会 『世界回教徒対策の必要性に就いて』(昭和13年)

昭和13(1938)年は日本のイスラム熱が高揚した年であった。代々木上原に東京モスクが完成し,国策翼賛機関である《大日本回教協会》が林銑十郎元首相を会長に戴いて成立した。貴紳顕官がメンバーに名を連ねている。しかし,この協会に名を連ねた人々はイスラムイスラム諸国も何も知らない人々であった。

協会会員向けに出版されたパンフレットが数冊でている。<マル秘>『世界回教徒対策の必要性に就いて』が第1号として出版されている。現在,これを読んでみて,何ら秘密になるような内容はない。いまのようにインターネットを通じて,世界情報やイスラム情報を瞬時に入手できる時代とは違い,戦前では海外情報や国際情勢は一部のものだけが入手できるものであった。少ない情報量の時代は,一部の人間が情報を独占し,これを他者には教えないという,情報の囲い込みの時代であった。イスラムに関しても同じであった。だから,内容的にたいしたことがなくても,マル秘にしている。これを読んで,国際関係に影響を与えるため,マル秘としていることを見ていて,国際情報を必要以上に囲い込んでいたことと,外国に対して過剰反応していたことがわかる。

現在は情報過多の時代であるが,情報を取捨選択することは誰でもできる時代は幸せかもしれない。しかし,本当に意味ある情報を見抜くのは難しい。海外から日本がどう見られているかに気にしているのは,戦前もいまも同じあろう。