『北支 現地編集 回教及び回教徒』


『北支 現地編集 回教及び回教徒』(第一書房,昭和17年9月)

日中戦争が《大東亜戦争》に拡大すると,日本軍は中国大陸で戦線を拡大している。戦線が拡大すると,現地工作も並行して行われていた。とくに,華北イスラム教徒に対する宣撫工作が行われるようになった。中国大陸には,回民(現在,回族)と呼ばれるイスラム教徒がいる。戦線が拡大すると,漢族(中国人)とは異なる,生活習慣を保持しているイスラム教徒を日本軍に味方につけようと工作活動が行われた。

当時,そして現在でも中国のイスラム教徒に関して,一部の専門家を除いて,その存在について関心が払われることはない。この雑誌は戦時中の北京の回民生活やモスクを写真つきで紹介している。この雑誌はイスラム教徒の紹介記事だけであるが,おそらく北京でイスラム教徒に対する日本の工作活動があったと思われるが,そうのようなことは全く書かれてはいない。

今となっては日本の対イスラム教徒工作とその成果についてはほとんど不明である。しかし,雑誌に記録された写真は,1940年代の中国のイスラム教徒を知る史料として価値がある。現在の中国でも,漢族の回族に対する偏見と差別意識は残っている。過去の偏見は今以上大きかった。このため,中国側が回族(回民)を撮影した写真はあまり多くはない。当時,全く意識することはなかったが,このような現地情報の紹介が貴重な史料となっている。