間野英二訳注『バーブル・ナーマ』(松香堂,1998年)


間野英二訳注『バーブル・ナーマ』(松香堂,1998年,16,000円)

間野英二・京大名誉教授は,中央アジア・ティム-ル王朝の王子で,インドのムガール朝創始者であるバーブチャガタイトルコ語で著した回想録『バーブル・ナーマ』の日本語全訳をした。バーブルが語る恋や酒の告白,辛辣な人物批評などは生き生きとした記述で読者を魅了する。

バーブル・ナーマ』は,中央アジアチャガタイ・トルコ文学の最高傑作とも言うことができ,シルクロードの歴史・文化・社会に関する情報の宝庫である。このような貴重な歴史書が難解な原文(チャガタイトルコ語)から日本語に全訳され,これを日本語で読めることは凄いことである。ただ,研究書であるため価格が高価なのが残念である。

間野教授は,この訳注以外に,『バーブル・ナーマの研究1 校訂本』,『バーブル・ナーマの研究2 総索引』,『バーブル・ナーマの研究4バーブルとその時代』を出版している。全4巻の研究である。このすばらしい研究成果により,間野教授は学士院賞を受賞し,ウズベキスタンから表彰されている。『バーブル・ナーマ』は有名な書籍であるため,ロシア,トルコ,独逸,仏蘭西,米国などの研究者がテキスト出版や翻訳を行ってきた。間野教授が全訳したことは日本の読者にとってすばらしいことであるが,バーブル・ナーマのテキストを校訂し,これをアラブ文字によって出版している。このテキストは世界の研究者が利用可能で日本の中央アジア・トルコ学の研究成果が世界のトルコ学研究に貢献している。このテキストは従来出版されたものよりも格段に優れている。今後,世界の研究者は間野教授のテキストを参照するのを必須とするであろう。

間野教授の研究成果は,京都大学の東洋学の伝統と言うことができるであろう。

ただ,残念なことに,『バーブル・ナーマ』(全4巻)は研究者以外に全巻を簡単に揃えられるような価格ではない。日本の読者に中央アジアチャガタイ・トルコ文学の最高傑作を知ってもらうため,日本語訳だけでも平凡社東洋文庫などから廉価版で出版されることを願ってやまない。