アラビアのロレンス


6月2日,NHKのBSハイビジョンで「アラビアのロレンス」をテーマに番組が放映されていた。吉村作治サイバー大学学長,大河原知樹・東北大学准教授が解説していた。アラビアのロレンスは忘れられてはまた取り上げられる人物である。それだけ魅力と矛盾の多い人物であろう。
ロレンスの人となりを歴史家やイスラム研究者の立場だけではなく,精神分析や脳神経科学の心理学者や神経医学者による話を聞いてみたいものだ。彼の戦後の行動も戦争によるPTSDではないのか。そういう分析の視点で話がでてこないのも,ロレンスの英雄像を破壊したくないからなのであろうか。
テレビの番組でも取り上げられ朗読されていた,T.E.ロレンスの自著『智慧の7柱』が全5巻で平凡社東洋文庫から最近出版されてしいる。この翻訳は,1922年オックスフォード版の完全本からの全訳である。訳者のお陰でロレンスの韜晦な英文を日本語で読めるようになっている。
デビット・リーン監督の映画《アラビアのロレンス》の影響もあると思うが,ロレンスの翻訳やロレンス関連本が多く出るのはアジアでは日本ぐらいである。日本ではロレンスに関心のある層が厚い。中東イスラム世界とは縁遠い日本人がロレンスに関心を持つのも興味深い。もし,イスラム世界にもっと近かったなら,ロレンスにロマンスを感じることがあるのであろうか。
20年前にロンドンの古本屋を覗いたとき,『智慧の7柱』の初版限定150部の稀覯本を見せてもらったことがあった。その値段は個人が買えるような値段ではなく,乗用車が買えるような値段であった。店主が大事そうにページを開けてくれたことを思い出した。しかも,そのとき稀覯本が2冊もあった。その1冊は有名な政治家が元の持ち主で書き込みがあった。この2冊は今頃ロレンスファンの持ち物になっているのであろうか。このような高価な稀覯本は購入できなかったので,その後ロンドンで出版されたオックスフォード版の『智慧の7柱』を購入した。