Hind Ixtilalcilari


Abdulrauf Fitət, Hind İxtilalcilarl, Grafenhainichen, 1944(『インド反乱者たち』)

第2次世界大戦中のドイツでは,トルコ系諸語の書籍が出版されている。著者フィトラットについては,小松久男氏の『革命の中央アジア』(東大出版会)が詳しく説明している。この書籍は,1923年のベルリンでアラブ文字により出版されたテキストを,トルコ学者ガベンと中央アジアからの亡命者Veli Kayum-Xanがラテン文字表記にして校訂している。

戦時中のドイツには,捕虜になったソ連軍兵士の中に中央アジアコーカサスのトルコ系民族出身者がいた。この書籍を読んだのは捕虜たちだったであろう。フィトラットの書籍が選ばれたのは,彼の民族主義的な性格が反ソの読み物として適切だと思ったのかもしれない。

フィトラットについては小松氏が詳しく解説しているが,1944年当時スターリンの粛清により,すでにこの世にはいなかった。ソ連では長らく彼の書籍は禁書であった。再版されるのは,1991年のソ連崩壊後であった。

この書籍は出版に経緯については全く書かれていない。時代の背景を知らずに,この書籍を読むならば,トルコ学研究の資料の一つとしてしか理解されないだろう。この書籍は,戦争とトルコ学研究という,学問の戦争協力の側面を教えてくれる。