中央アジア研究会 『中央アジア叢書』


中央アジア研究会 『中央アジア叢書』(第1輯〜第6輯)

中央アジア研究会とういう研究会が,『中央アジア叢書』というシリーズで昭和14年から15年まで合計6冊の小冊子を出版している。これらは国立国会図書館に収蔵されている。

第1輯 中央アジア研究会編 中央アジアの歴史的意義
第2輯 中央アジア研究会編 中亜民族共和国事情/卓井 佑著 カザクスタン紀行
第3輯 三橋冨治男著 新旧ロシア中亜政策一班/今岡十一郎著 中央アジアの民族問題
第4輯 中央アジア研究会編 高架索の概観:コーカサス旅行談
第5輯 徳光三著 アフガニスタンの農業事情
第6輯 内藤智秀著 西アジア文化/田辺宗夫著 中央アジアと英露

これら小冊子の出版場所は代々木上原1111番地となっている。著者の三橋冨治男,今岡十一郎は,当時外務省調査部に籍を置いていることから,外務省関係者による研究なのであろうか。この研究会は中央アジアが対ソ政策か,対イスラム対策がらみの研究会なのだろうか,興味あるところだ。なぜ,この時期に中央アジアなのであろうか。昭和12年日中戦争開戦以後,対イスラム政策が策定されていき,外務省に「回教問題研究会」が開かれている。中央アジアも対中央アジア政策を準備するための研究会かもしれない。昭和16年に対米戦争が開戦すると,中央アジアに対する研究の余裕がなくなったのか,その後『アジア叢書書』は発行されず,その後の研究会の動向についも不明である。

戦後,三橋冨治男は千葉大学教授としてオスマン史の研究を続け,彼の弟子の永田雄三(元明治大学教授),設樂國廣(立教大学教授)がオスマン史研究者として育っている。戦中の三橋は外務省に籍を置いていたからであろうか,中央アジアのトルコ系民族の動向を追っていた。残念ながら戦時中の活動について語らずに逝ってしまった。ハンガリー研究者の今岡十一郎は戦後在野の研究者としてハンガリー語ハンガリー文化の研究を続けているが,中央アジアと関係することはなかった。今岡も戦前のハンガリーでの活動については語っても,《ツラン運動》も含めて戦中の活動に関して語ることはなかった。