吉村貴之 『アルメニア近現代史』(東洋書店)

アルメニア近現代史―民族自決の果てに (ユーラシア・ブックレット)

アルメニア近現代史―民族自決の果てに (ユーラシア・ブックレット)

吉村貴之『アルメニア近現代史 民族自決の果てに』(ユーラシアブックレット 142,東洋書店,2009年10月20日,64頁)

トルコに関心ある人に比べると,アルメニアに関心ある人が書いた書籍を読むと,トルコに対する感情移入の激しい著作が多いなかで,吉村貴之著『アルメニア近現代史』は小冊子でありながら,アルメニア近現代史を知るのみにならず,トルコ・アルメニア関係を知るのに役立つ著作である。少壮の歴史家である著者の筆致は抑制されているだけに,トルコとアルメニアの関係を知るのに適していると言えよう。他のアルメニア関係の著作はアルメニア人の言説そのままという人が多い。

著者はアルメニア近現代史を研究するのにオスマン帝国内のアルメニア人の動向にも注意を払っている。この点でも優れていると言えよう。たとえば,17頁で1909年4月14日にアナトリア東部の都市アダナでアルメニア人とムスリムとの衝突した事件を記している。この軍事裁判ではムスリムの方に厳しいという判決がおりて,この時点では国家機関を挙げてアルメニア人の弾圧を行っていたとは言い難い,というような注目すべきことも書いている。

小冊子ありながらも,アルメニア近現代史の輪郭を知るのに役立つ好著である。